アブサンとは薬草酒、ハーブ酒の一種。苦味のあるニガヨモギを使用していることが特徴で、ニガヨモギの学術名「Artemisa absinthium」が、アブサンの名前の由来となったと言われています。フランス、スペイン、チェコ、スイスなどヨーロッパを中心として作られている薬草スピリッツの一種です。
アブサンは、日本ではまだ馴染みのないマイナーな存在。しかし一方で、世界中に多く魅了された人々がいて、時にはあまりの魅力に禁止された歴史もある魅惑的なアブサン。
幻の焼酎と呼ばれる東京青ヶ島の「あおちゅう」をベーススピリッツに、ボタニカルには、岐阜産のニガヨモギ、アニス、フェンネル、アンジェリカ、チコリ、ラベンダー、薄荷などのスパイスを使用しました。今回のジャーナルは、この特別な「あおいアブサン」についてのお話です。
八月のアブサン以来、虎ノ門蒸留所で約一年半振りとなるアブサン。このジャーナルで今年の「あおいアブサン」の魅力をお伝えしていきます。
二重式カルデラの小さな火山島 青ヶ島
今年のアブサンは、青ヶ島の「あおちゅう」をベーススピリッツとして使用しています。青ヶ島は、東京から約360kmにある有人島としては伊豆諸島最南端の島。日本一人口の少ない村として知られています。
現在も火山活動を続けている青ヶ島。火山島が故、地熱の施設があり産業として塩の製造などが行われていたり、島独自の生活環境が見られます。
一年を通して10〜25℃の温暖湿潤な海洋性の気候ですが、集落は標高が高い位置にあるため、他の伊豆諸島の島々と比較すると若干涼しく感じるような気候です。その他の気候の特徴としては、年間の湿度が平均85%と非常に湿度が高いこと。このような気候風土のもと造られる「あおちゅう」は一体どんなお酒なのでしょうか。
独自の歴史や人々の生活に根付いた島酒「あおちゅう」
今回アブサンのベーススピリッツとして使用した幻の焼酎とよばれる青酎は、青ヶ島の伝統的な島酒。青酎の酒蔵の面白さは、代々醸造の文化を守ってきた家族たちによって開かれた組合方式で、現在も数名の醸造家の各々が少しずつ違う材料や製法で造っています。今回はその杜氏の一人、奥山晃さんのあおちゅうを分けていただきました。
奥山さんはお母さんの直子さんから引き継ぎ、麹、水、酵母を一度に仕込む、昔ながらの伝統的な製造方法「どんぶり仕込み」で酒を醸しています。また、青ヶ島由来の熱帯植物のオオタニワタリの葉を麦たちにかぶせることでコウジカビを麦に移し、自然の麹をつかった自然麹法をとっています。原材料の芋はもちろん、発酵方法や微生物まで島由来のものを使っており、人々のローカルな生活の中での島酒造りは長い間島で継承されてきた文化なのです。
あおいアブサン、前回との違いと特徴
「あおいアブサン」の特徴は主に2点。前回までは漢字の「青酎」を使用してましたが、今回は前述した幻の焼酎「あおちゅう」をベーススピリッツに使っていること。もう一点は希少な国産ニガヨモギを使用し、これまでと異なる漬け込みを行ったこと。これまでの虎ノ門蒸留所のアブサンは、ブルガリア産のニガヨモギ(ワームッド)を使用していましたが、今回は蒸留家一場の研修先であるアルケミエ辰巳蒸留所の辰巳さんにご協力いただきました。辰巳さんに頂いた希少な岐阜産のニガヨモギで蒸留し、はじめて蒸留後の「漬け込み」をプロセスに加えたことで今年のアブサンには、味わいにも色合いにも変化が生まれました。味わいは、例年よりも苦味や深みが増してよりアブサンらしく、また色合いは、緑に近い黄金色で光に当たるととても綺麗に発色します。
「あおいアブサン」の楽しみ方
ニガヨモギの苦味、アニスやフェンネル由来の甘みがあり、香りが強いため食後にお楽しみいただくことをオススメしています。
「あおちゅう」独特の香りや味をうまくハーブスパイスで消せていて、初めの飲み口は甘みを感じます。余韻の部分であおちゅうらしい雰囲気を感じることができてどこか新しい味わいです。
加水すると白くなるとともに香りがとても広がるので、ストレートに少しずつ水を足しながら変化をお楽しみいただくのもよし、またソーダ割でお楽しみいただくのもさっぱりと虎ノ門蒸留所らしい楽しみ方もできます。
Tokyo Local Spiritsをコンセプトに東京の伝統的なカルチャーを軸に、新しいものを造る。東京の島の伝統的な島酒文化をここ虎ノ門で新しくアブサンに。
お酒を通して、私たちは島との共生を実感し、人と繋がることができる。東京の暮らしと生活に根付いたカルチャーとして、これからも新しいお酒造りを続けていきます。