季節の変わり目には、何か物思いにふけることが多い。春の桜は出会いと別れ、どこか悲しいような、嬉しいような気持ちになるのだけど、秋の金木犀は何だっただろう。
子どもの頃からこの時期、意識せずともこの香りを嗅いでいて、その時何かを思ったに違いないのだけど、具体的にはあまり思い出せなくて、切なさのような、どこか懐かしさのような気持ちが残る。
夏の終わり、冬に向かうその季節が徐々に移り変わるとき、陽の力が強くなる春の桜と同じように、きっと何かの心が動かされるのかもしれない。
虎ノ門蒸留所では、キンモクセイの花を摘み「東京のキンモクセイ」してジンに仕立てています。2020年から採取、蒸留を毎年繰り返し、今年は4回目の採集でした。金木犀の香りが漂い始め、街歩く人たちがその秋の香りを楽しむことができるのは、ほんの1週間あまり。散り際、道に花が落ちているのを見始める頃、都内の神社や学校、知人のお庭などで、取らせていただいています。
小さいその花を丁寧に摘んでいると、よほど物珍しいのかいろんな方に声をかけられるのですが、「お酒をつくるための香りづけとして使わせていただいています」と答えると「地元の金木犀のお酒が飲めるなんて良いですね」「どこで飲めますか?買うことはできますか?」という反応が返ってきたりと、思いもがけないコミュニケーションが生まれます。
東京に住む私たちは、自然が近くにある地方とは違って、いわゆる地物を食べたり、名産を誇れる機会が少なく感じます。無機質な建物が多く、どこからでも物が手に入り、普段食べ物がどこから来ているのか、そこに誰が関わっているのか、という実感が少ないからなのでしょうか。情報が溢れ、仕事が忙しい中で生活を営んでいると、季節の移り変わりさえ忘れてしまいそう。
そんな中でも、街に暮らしていても毎年香りを感じることができる花や木々、春であれば沈丁花、夏はくちなし、秋の金木犀は、私たちの足をふと止めて、自らの立ち位置を教えてくれるようです。また小さい頃からどこかで嗅いでいるその香りは、どこか懐かしい気持ちになり、あの頃の嬉しかったことや楽しかったこと、今となっては良い思い出となる切なさや悲しさまでも呼び起こします。
馴染みある秋の香りをボトルに詰めようと、花が咲きはじめてから一週間は、皆で摘みに行っては蒸留する、の繰り返し。手仕事にこだわるのは、自分でも”リアルさ”を感じていたいからかもしれません。
そして、同じような思いに共感してくれた方々が、毎年金木犀摘みに参加してくれています。当初は蒸留所のメンバーが中心での採集でしたが、一般の方からの募集を続けたところ、今年はより多くの方が興味を持ち参加をしてくれました。
晴れた天気の日、気持ちの良い秋風の中、皆で体を動かしながら、脇目も振らず小さな花を取るなんて普段都会では得られない体験かなと思います。ジンというお酒になるまでの過程に参加し、ものづくりの楽しさを知る。
それを東京のど真ん中、ビル中の小さい蒸留所でもできるスケールで、誰でも参加できるちょっとしたコミュニティのように。と、蒸留所立ち上げ前の研修時代、アルケミエ辰巳蒸留所の辰巳さんのところで、金木犀摘みに初めて参加した時自らも感じ、そんな思いで始めたのを思い出します。
東京でも感じられる、日常の中の季節感。TOKYO LOCAL SPIRITSのエッセンスはここにあります。
季節のジン「東京のキンモクセイ」
販売価格: | 5,940円(税込) |
ベースアルコール: | 嶋自慢羽伏浦(新島酒蒸留所) |
度数調整割水: | 奥多摩源流の沢井湧き水(澤乃井仕込水) |
ボタニカル: | 東京都内で採取したキンモクセイの花、 ジュニパーベリー、チコリルート |
アルコール度数: | 46 % |
容量: | 500 mL |