カカオジン

東京を起点に、日本各地の風土を旅するように、私たちはジンをつくってきました。土地に宿る四季折々の香りをすくい上げ、そっとボトルに閉じ込める。それが、私たちのものづくりのはじまりです。

けれど、年に一度だけ。私たちの視線は、はるか地球の裏側へと向かいます。

街がチョコレートの香りに包まれる、あの季節———。そう、バレンタイン。この時ばかりは、“ローカル”という言葉の輪郭を、もっと広く、深く捉えたくなるのです。

カカオは、お菓子の原料としてだけでなく、じつに奥深いボタニカルでもあります。品種や産地、気候のわずかな違いで、驚くほど豊かな表情を見せる存在。その多様性に魅了され、毎年異なるアプローチでカカオジンを仕立ててきました。

 

 

Tanzanian cacao

5年目を迎える2025年のテーマは、“酸”。

昨年は、焙煎香の重厚さが際立つボリビア産カカオでしたが、今年は一転。果実のような透明感を求め、世界生産量のわずか0.1%しか採れない、希少なタンザニア産カカオにたどり着きました。

タンザニアの風景

 

アフリカでも古くからカカオ栽培の歴史を持つタンザニア。

1880年代に持ち込まれて以来、140年以上にわたって育まれてきたこの地のカカオは、ナイルの源であるヴィクトリア湖、世界最高峰のキリマンジャロ、そして広大な大地に抱かれて育ちます。

カカオの木

 

北緯20度から南緯20度の「カカオベルト」にありながら、なぜ生産量が少ないのか。

それは、この国が自然に恵まれすぎていたからかもしれません。広い国土と様々な地形を有し、農業が盛んなタンザニアでは、とりわけカカオ栽培に注力する必要がなかったと考えられています。そんな自然環境で実るのは、果実のような瑞々しい酸をたたえ、どこか神秘的な香りを放つカカオ。

タンザニアカカオ豆

 

あまりの品質の高さに、近年はクラフトチョコレートメーカーからも熱い視線が注がれています。

しかし、私たちの心を掴んだのは、味わいだけではありません。 このカカオの背景には、もうひとつの大切な物語があるのです。

 

 

Kokoa Kamili

時は2013年。

タンザニアでは、長らく発酵や乾燥の技術が整わず、カカオ本来の力が引き出されていませんでした。そんな状況を変えようと立ち上がったのが、ソーシャルベンチャー「Kokoa Kamili」です。

Kokoa Kamili

彼らは契約農家から生カカオ豆を相場より高値で買い取り、発酵・乾燥・選別までを自社で一貫して行う体制を構築。収益を生産者へ適切に還元するだけではなく、栽培指導などを通したサポートにより、品質全体の向上にも取り組んでいます。

「Kokoa Kamili」の誠実な姿勢は、私たちの信じるものづくりのあり方とも重なりました。

Kokoa Kamili


 

FILFIL田川さんと追求したカカオの“酸”

そして、このカカオとの縁をつないでくれたのが、「FILFIL CACAO FACTORY」ショコラティエ・田川真澄さん。金沢の名フレンチ「FIL D'OR」でシェフとして活躍する傍ら、カカオの魅力に心を奪われ、Bean to Barの世界に飛び込んだ人物です。

豆の選定から焙煎、製造までを一貫して手がけ、シンプルな素材だけで構築される「FILFIL」のチョコレート。そこには、カカオの可能性が、純度高く映し出されています。

FILFILのチョコレート

 

今回、そんな田川さんとともに挑んだのは、カカオの酸の奥行きを探ること。

焙煎で失われやすい香りを守るため、ニブとハスクの両方を用い、浅煎りを基調に。焙煎が深ければ酸は消え、浅すぎれば土の風味が立ちすぎる——。その絶妙な狭間で果実と大地を行き来する香りを目指し、田川さんに焙煎をお任せしました。

 

 

虎ノ門蒸留所にて、ミルクチョコレートをイメージした蒸留

蒸留の工程でも、その繊細さを支える工夫を重ねています。ジンにおいて、本来酸味そのものをダイレクトに取り出すことはできません。そこで、カカオが秘める酸を最大限表現できるよう、フルーティーな要素を持つ素材を掛け合わせることに。

カカオジンのボタニカル

 

イメージしたのは、ミルクチョコレート。

「GOOD CHEESE LABORATORY」のチーズ製造工程で生まれるホエイがもたらす、まろやかな乳酸。そこに、信濃大町産のグラニースミスが持つキリッとしたリンゴ酸を重ね、カカオの果実香にふくらみをもたせました。

この2種の酸を軸に、15種以上のボタニカルとスパイスを織り込み、オレンジのような甘酸っぱさ、焼き立てロールパンのような香ばしさ、そして深く香るカカオのコクを層のように重ねました。

ジンらしさの中に、カカオの新たな側面がふわりと立ちのぼる——そんな一本です。

カカオジン



ロックで、氷のとけゆく時間とともに香りのレイヤーを楽しむのもよし。これからの寒くなる季節には、お湯割りにすることで果実味がほどよくひらき、やわらかな香りが立ち上がります。一皿のデザートのように、ゆっくりとお楽しみください。

カカオという小さな果実には、土地の記憶、生産者の想い、そして受け継がれてきた時間が宿っています。

この冬、私たちが出会ったタンザニアカカオが、あなたの夜にそっと寄り添ってくれますように——。そんな願いとともに、今年も蒸留所より、カカオジンをお届けします。

 

ONLINE STORE

カカオジン

販売価格: 7,040円(税込)
ベースアルコール: 嶋自慢羽伏浦(新島蒸留所)、清酒焼酎(井上酒造)
度数調整割水: 奥多摩源流の沢井湧き水(澤乃井仕込水)
ボタニカル: タンザニアカカオ豆、
レモン&ネーブルオレンジ(尾道/有機栽培)、
生姜(高知/自然栽培)、
青リンゴ(信濃大町)、アンゼリカ、
ジュニパーベリー他スパイス合わせて15種類
アルコール度数: 48 %
容量: 500 mL 

online store