虎ノ門蒸留所は、都会のビルの中にある蒸留所。ということもあってか普段から色々な人が立ち寄ります。遠方の造り手や生産者がふらっと来たり、来てくれたことがきっかけで思いがけない縁が生まれることも時折です。
季節のジンはローカルを基本として、香りが良い「時季の植物や果実」を普段から利用しているのですが、今回蒸留したカカオジンは日本から見た地球の裏側、南米ボリビアから。通常の流通には乗らない自然の中に生息するカカオ、がきっかけで今回の「カカオジン」は生まれました。
「Forest Heritage Treasures」
今回この希少なカカオを知ったのは、2021年に発足した「Forest Heritage Treasures」のプロジェクトリーダー尾崎雅章さんからのご案内でした。Forest Heritage Treasuresは、南米ボリビアのアマゾンの自然資源を守るため(収穫制限、正当な流通ルートの確立、フェアトレード)、そして絶滅危惧種である“ピンクイルカ”を保全することを目的としている団体、そこに所属する尾崎さんは幼い頃から地球が好きで、団体の代表からプロジェクトの活動内容を聞いて感銘を受け、ボリビア行きを即決したツワモノ。前職、東京蔵前のダンデライオン・チョコレート・ジャパンで培った利き豆を武器に単身ボリビアに渡り、生活をしながら野生のカカオに出会いました。
以前はチョコレート職人として製造を担当していて「食」についての関心も高い尾崎さん。バーで蒸留酒やジンを飲むことが好きで、中でも虎ノ門蒸留所の「COMMON」は一番口に合うととても気に入り、虎ノ門にもよく飲みに来ていました。
数回来てくれた後、蒸留家の一場と虎ノ門で初めて出会い、プロジェクトの活動と希少なワイルドカカオの話をしてくれました。アマゾンの自然環境を守る、という社会的な活動内容を行っていること。そして遠く離れた南米ボリビアの自然のカカオのポテンシャルについて多く語り合い、一場は今年のカカオジンに使うことを決めました。
Bolivian Wild Cacao
今回蒸留に使用したのは、Beniano種と呼ばれるボリビアの熱帯地方Beni県で収穫される野生のカカオ。日本の国土と同じくらいの面積をもつ熱帯雨林に自生しており、人間が農園で栽培した市場でよく見られる“ワイルドカカオ”とは別物のようです。
原生林で育つ樹齢が数十年以上のカカオの木は極めて背が高く収穫するだけでも一苦労、さらに実が自然に完熟する期間は約2ヶ月と限られており、流通量で比べると約1/10000と大変希少なカカオ。
元チョコレート職人としての知見を活かし、尾崎さんが現地で直接品種の選定を行い、生産者と継続的に適正価格で取引する「フェアトレード」の考えに基づき、カカオ豆を相場の2倍の値段で取引。加工も先住民族の住む小さな村で行うことで、自然環境だけでなく、生産者の生活の向上にも貢献しています。
「生産性」という言葉とは無縁の野生のカカオですが、実は小ぶりながらフレッシュな甘味、苦味、酸味、がぎゅっと凝縮されており、チョコレートにすることでそれらをバランスよく引き立てまとめる、驚くほどクリーンな甘みと素朴な風味を感じることができます。
試作、ロースト
尾崎さんから「遊んでみちゃって下さい」と不敵な笑みと生の豆サンプルをいただき、一場はフライパンでコロコロ、ローストしてみたり、しないで生豆のままを使ってみたりとカカオ豆の香りの出方や変化から試作の繰り返し。
ローストにより出る香りと味を、時間や火加減による違いを感じながらじっくりつくりあげていけたのは、今回のカカオ感の風味にも影響されていると思います。そして本番、ローストしてくれたのは「 LA BASE de Chez Lui 」の酒井將駄シェフ。試作を重ね、蒸留した時に最大限香りが出るよう、最後はブロに焙煎調整をお願い致しました。
黒潮焼酎をベースに蒸留した今年のカカオジン
普段ベースに使用している島焼酎は減圧の麦焼酎、麦感を感じつつも、スッキリ飲みやすいテイストです。今回は素材をより引き立たせるため、別の焼酎を試そうとしていた中、以前訪れた八丈島の蔵の中で最も小さい単位で、こだわりを持った坂下酒造の「黒潮」で蒸留することを決めました。
常圧の麦+芋焼酎の中の麦の原酒部分を使用。麦の個性がより強く、坂下酒造の特徴である発酵感、麹感、多少の酸味なども感じさせるしっかりしているも個性的なお酒です。
ベースとしては個性が強いようにも思いますが、麦焼酎とカカオは相性が良いと思っていたので蒸留に使用してみると、思った以上にカカオ感を感じさせ、余韻の部分も期待以上の仕上がりに。
2022-23年のオレンジ、スパイスとカカオのバランスが最高な南雲主于三さん(memento mori)とのカカオジンもとても美味しく人気でした。
南雲さんからの学び、今回ボリビアの野生のカカオとの出会いを経て、アメリカンチェリーや紅茶のような甘さとビターな深みを併せ持つカカオニブの個性を出すために、麦の香ばしさを合わせスパイスとのバランスを考え、ダークチョコレートのイメージで仕上げました。
Beniano種の豊かで複雑なフレーバーをトップから感じることができます。ロックやネグローニで少しずつ氷を溶かしながら、力強い野生のカカオを感じてみてください。
そして、ほんのり香る国産オレンジピールとスパイスの余韻に、お気に入りのショコラを合わせてみてもよいかもしれません。
地球の裏側から届いた野生のカカオ。思いがけない出会いやコラボレーションも色々なカルチャーや多様性を含む東京の蒸留所ならではです。
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カカオジン
販売価格: | 7,040円(税込) |
ベースアルコール: | 黒潮 麦焼酎部分原酒(坂下酒造 八丈島) |
度数調整割水: | 奥多摩源流の沢井湧き水(澤乃井仕込水) |
ボタニカル: | ボリビアンワイルドカカオニブ(ボリビア)、 国産ネーブルオレンジピール、 スパイス数種、 ジュニパーベリー、チコリルート |
アルコール度数: | 52 % |
容量: | 500 mL |